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株式会社ヒトボディ第三話〜眉間に刻まれた報告書〜

「これは……もう限界かもしれない」

表情筋課・前頭筋チームのベテラン社員、額田(ぬかた)シワ子は、鏡の前でため息をついた。


最近、シワ報告書が急増している。特に【眉間のあたりに刻まれた“深い2本線”】が、社内トラブルとして問題視されていた。


「眉を上げ下げするたびに、データが増えてるわ……これはメンタル管理部に提出レベルよ」


新人の額面(がくめん)ルイが、眉間のモーションセンサーを確認しながらつぶやく。


「一日平均120回の“眉間寄せ”。感情のこもった困惑表現、強調されすぎですね……」



原因は、【クレーム多発とZoom会議の過密スケジュールによる**“困り顔の乱用”】だった。

つまり、“おでこ”は常に全力稼働させられていた。


さらに悪いことに、最近では「何もしてなくてもシワが戻らなくなってきた」という恒常的な折り目が生まれていた。


「もう……消えないのよ、このライン……」


額田はそっと眉間に指をあてた。


そのときだった。部屋のドアがノックされる。


「ちょっと、おでこチーム大丈夫? 表情筋課のほうで異常検知出てるのよ」


やってきたのは課長の笑田ほころだった。

ほころは額田の眉間をじっと見つめる。


「……この線は、“頑張ってきた証”かもしれないけど、あなた自身を傷つけるほどの努力じゃだめ。ほぐす時間、つくりましょ」



翌週。


表情筋課では「表情バランス調整週間」が実施され、前頭筋たちに【困り顔禁止デー”】が導入された。

代わりに導入されたのは、微笑み誘導アプリ【ニッコリミラー】。


「困る前に、緩める。緊張する前に、ほころぶ」


画面に映るやさしい笑顔に導かれ、額田の眉間は、ほんの少しだけ平らになっていた。



今日も、おでこは働いている。

でももう、シワをひとりで抱えることはない。


今回のSSはいかがでしたか?


たるみを防げ!取引先からの理不尽な圧力(重力)〜


お楽しみに!

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