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株式会社ヒトボディ第六話〜俺たち(咬筋グループ)のせいで音が鳴ってる?顎関節に響く悲歌(エレジー)〜

「……また“クリック音”、出てますよ。朝から3件目っす」


顎関節課の主任、関戸(せきど)アツシが眉をしかめた。

口の開閉時に起こる、あの「カクッ」という音。

正式には“顎関節雑音”と呼ばれ、最近その報告が急増していた。



「原因、またウチっぽいです……」


表情筋課 咬筋グループのリーダー、噛田(かみた)シンが申し訳なさそうに頭を下げる。


「緊張続きで、咬合圧が高まってて。関節、押しちゃってるんだと思います」



咬筋グループは今や、無意識食いしばりの激務で昼夜を問わず稼働していた。

一方、顎関節課は繊細な動きと滑らかさを保つ専門部隊。

強い圧を長時間受ければ、構造にズレが生じるのも当然だった。


「俺らのせいで……関節、狂わせてるんだな」


噛田の声は、妙に静かだった。



後日、緊急の顔面支社 合同ミーティングが開かれた。

議題は「咬筋グループの過剰業務と顎関節トラブルの関係性について」。



「確かに咬筋さんたちの働きぶりはすごい。でも、そのせいで我々は**ズレる苦しみ**を背負ってる」

関戸主任の声が会議室に響く。


「音が鳴るたびに、住人(利用者)は不安になる。

“壊れたんじゃないか?”って。……あれ、俺たちの悲鳴なんです」



「……すまん」

絞り出すように謝る噛田に、表里課長が口を開く。


「これ、誰かのせいじゃないの。**働きすぎる筋肉と、それを支える関節の“バランスの崩れ”**が原因よ」



会議の最後に提案されたのは、新たな連携施策だった。


・咬筋グループの業務改善案

・夜間咬合の圧力分散に向けた【枕】導入実験

・ストレッチ訓練として、**“口あけヨガ”**を合同実施

・顎関節との動きの再連携


「音が鳴らなくなった日、“あの静けさ”が、いちばん嬉しかったっすね」


後日、そう話した関戸主任の頬には、どこかやわらかな表情が浮かんでいた。



その日、静かな口の開閉が復活した。

関節は鳴らず、咬筋も力まず、口元が少しだけ自由になった。


まるで、エレジーの終わりに訪れる——小さな希望の余韻のように。


今回のストーリーはいかがでしたか?


次回は咬筋グループから離れて顔面支社のお話です!


ほなまた!

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