株式会社ヒトボディ第八話〜【本社命令!「なんかおばさんになってる」を数値化せよ!】〜
- ファミリアくわな鍼灸院
- 5月6日
- 読了時間: 3分
株式会社ヒトボディ──その“顔面支社”に緊張が走ったのは、週明け早朝だった。
「本社データ分析課より通達。“なんかおばさんになってる”という定性的クレームが急増。原因を特定し、定量化せよ」
会議室に響く無機質なアナウンス。壁際では、表情筋課の面々が顔を見合わせていた。
「またアレですか……定性的な不満を“数字にしろ”って、無茶振りにもほどがあるわ」
ぼやいたのは、頬部グループの主任・笑田ほころ。
「“なんか”って何よ、“なんか”って!」と隣で机をバンバン叩いているのは咬筋グループの噛堂ぐいこ。
そこへ課長の**表里 笑子(おもてざと・えみこ)**が姿を現す。口元には微笑、だが目は笑っていない。
「私たちの存在意義を問う命題よ。やりましょう。“なんか”の正体を解明するわ」

その一言で、緊急対策チームが結成された。
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調査は多方面に及んだ。
まず動員されたのは側頭筋グループ。米噛リキオが無言でスクリーンを指し示す。
「年齢差はあっても、筋電図を見る限り、反応のキレが鈍ってるわね」と眼輪筋グループの瞬目アイコがつぶやいた。
「ここ、頬の可動域。たるんでる」
頬部グループの頬垂しづえが指したグラフは、口角の上昇角度が確実に落ちていた。
「つまり笑顔の“跳ね”が足りないってことか?」と、咬筋グループの噛堂ぐいこが立ち上がる。
「その通り。表情の“躍動感”が減ってるの。しかも、筋肉の“やる気”にも影響が…」
表里課長が目を細め、資料をめくる。
「ストレスによる無意識の食いしばり。常に顎まわりの筋肉が“緊急態勢”で、リラックスできてないのね」

ぐいこは黙って顎に手をやった。彼女自身、夜勤明けのような顔をしている。
「それと──」
重い沈黙を破ったのは、新人の肌野みらい。
「眉間グループが“過労死寸前”です。常に動いてる。“小さな苛立ち”が蓄積してるんです」
一同は凍りついた。
「“なんかおばさんになってる”って、結局、生活疲労の筋肉的表現ってことね」
表里課長が立ち上がる。目はキラリと光った。
「じゃあそれ、全部数字にしなさい。角度、振動数、稼働率、ストレス圧──全部!」
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データは蓄積され、「なんか」は数字になった。
・頬筋上昇角度:18.5°(理想値30°)
・眼輪筋の開閉スピード:0.7秒(基準:0.4秒)
・咬筋収縮の過活動比:185%(平常時比)
・表情筋総合稼働指数:61%(若年基準比)
・“疲労顔スコア”:78(最大100)
「数値化、完了しました」

報告を聞き、本社が下した指令はシンプルだった。
「改善しろ」
改善ミーティングが始まった。咬筋グループは食いしばり対策の緩和ストレッチを提案。頬部グループは「朝いち顔ジャンプ運動」の導入を決め、眼輪筋グループは1日5回の“ぎゅっと笑い目体操”を掲げた。
「でもこれ、地味に大変ですよね」と新人・肌野みらいが呟くと、課長の表里がニヤリと笑った。
「地味でいいの。顔は“日常の履歴書”だから」
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数週間後。
再び本社からレポートが届く。
「最近、なんか元気そうって言われた」
「いつも笑ってて若く見えるよね」
「肌、明るくなった?」
その“なんか”は、もう数字にする必要はなかった。
今回のストーリーはいかがでしたか?
「なんかおばさんになってる」を取り上げてみました。
感覚の悩みは定量化・数値化が難しいです。
今回は「日々の生活の疲労度」と解釈してみました。
顔も身心同様に疲れます。時々いたわってあげましょう☺️
次回は、表情筋課・表里課長の休日、まさかの場所であの男とバッタリ!です。
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