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株式会社ヒトボディ第八話〜【本社命令!「なんかおばさんになってる」を数値化せよ!】〜

株式会社ヒトボディ──その“顔面支社”に緊張が走ったのは、週明け早朝だった。


「本社データ分析課より通達。“なんかおばさんになってる”という定性的クレームが急増。原因を特定し、定量化せよ」


会議室に響く無機質なアナウンス。壁際では、表情筋課の面々が顔を見合わせていた。

「またアレですか……定性的な不満を“数字にしろ”って、無茶振りにもほどがあるわ」

ぼやいたのは、頬部グループの主任・笑田ほころ。

「“なんか”って何よ、“なんか”って!」と隣で机をバンバン叩いているのは咬筋グループの噛堂ぐいこ。


そこへ課長の**表里 笑子(おもてざと・えみこ)**が姿を現す。口元には微笑、だが目は笑っていない。


「私たちの存在意義を問う命題よ。やりましょう。“なんか”の正体を解明するわ」

その一言で、緊急対策チームが結成された。


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調査は多方面に及んだ。

まず動員されたのは側頭筋グループ。米噛リキオが無言でスクリーンを指し示す。


「年齢差はあっても、筋電図を見る限り、反応のキレが鈍ってるわね」と眼輪筋グループの瞬目アイコがつぶやいた。


「ここ、頬の可動域。たるんでる」

頬部グループの頬垂しづえが指したグラフは、口角の上昇角度が確実に落ちていた。


「つまり笑顔の“跳ね”が足りないってことか?」と、咬筋グループの噛堂ぐいこが立ち上がる。


「その通り。表情の“躍動感”が減ってるの。しかも、筋肉の“やる気”にも影響が…」

表里課長が目を細め、資料をめくる。


「ストレスによる無意識の食いしばり。常に顎まわりの筋肉が“緊急態勢”で、リラックスできてないのね」

ぐいこは黙って顎に手をやった。彼女自身、夜勤明けのような顔をしている。


「それと──」

重い沈黙を破ったのは、新人の肌野みらい。

「眉間グループが“過労死寸前”です。常に動いてる。“小さな苛立ち”が蓄積してるんです」


一同は凍りついた。


「“なんかおばさんになってる”って、結局、生活疲労の筋肉的表現ってことね」

表里課長が立ち上がる。目はキラリと光った。


「じゃあそれ、全部数字にしなさい。角度、振動数、稼働率、ストレス圧──全部!」



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データは蓄積され、「なんか」は数字になった。


・頬筋上昇角度:18.5°(理想値30°)

・眼輪筋の開閉スピード:0.7秒(基準:0.4秒)

・咬筋収縮の過活動比:185%(平常時比)

・表情筋総合稼働指数:61%(若年基準比)

・“疲労顔スコア”:78(最大100)


「数値化、完了しました」

報告を聞き、本社が下した指令はシンプルだった。


「改善しろ」




改善ミーティングが始まった。咬筋グループは食いしばり対策の緩和ストレッチを提案。頬部グループは「朝いち顔ジャンプ運動」の導入を決め、眼輪筋グループは1日5回の“ぎゅっと笑い目体操”を掲げた。


「でもこれ、地味に大変ですよね」と新人・肌野みらいが呟くと、課長の表里がニヤリと笑った。


「地味でいいの。顔は“日常の履歴書”だから」



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数週間後。

再び本社からレポートが届く。


「最近、なんか元気そうって言われた」

「いつも笑ってて若く見えるよね」

「肌、明るくなった?」


その“なんか”は、もう数字にする必要はなかった。

今回のストーリーはいかがでしたか?

「なんかおばさんになってる」を取り上げてみました。

感覚の悩みは定量化・数値化が難しいです。


今回は「日々の生活の疲労度」と解釈してみました。


顔も身心同様に疲れます。時々いたわってあげましょう☺️


次回は、表情筋課・表里課長の休日、まさかの場所であの男とバッタリ!です。

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