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株式会社ヒトボディ第七話【我が社にも新しい風を!外資コンサル「ボトックス社」襲来!】

株式会社ヒトボディ――それは、ひとつの身体を一企業と見立てた壮大な組織だ。各部門がそれぞれの役割を担い、日々「健康」や「美」を維持・向上させるために黙々と働いている。


その中でも、感情表現や第一印象に関わる顔面支社・表情筋課は、社内でも注目度が高い花形部署だ。

しかし、その表情筋課に突如として激震が走る。


「えっ? 外資の…コンサル?」


課長の**表里笑子(おもてざと・えみこ)**が信じられないという顔で呟いた。


「えぇ、間違いありません」

ホルモン総務課の**分泌律子(ぶんぴつ・りつこ)**が資料を机に広げる。


「本社が、“効率と印象の最適化”を名目に、ボトックス社とコンサル契約を結んだようです。まずは、顔面支社に試験導入だとか」


ざわつく表情筋課。


「効率化って…まさか、筋肉を止める気か?」

咬筋グループの**咬地剛(かみじ・ごう)**が身を乗り出す。


「一時的に“表情を制限する”ことで、シワを抑制する。それが彼らのロジックです」

冷静に答えるのは、眼輪筋グループの目力ひかる(めぢから・ひかる)。


その数日後、彼はやってきた。


ボトックス社・特別顧問 皺取顔磨(しわとり・がんま)。

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無表情なスーツに無表情な顔を携えた、無機質な男。


「あなた方の努力には敬意を表します。しかし、筋肉が頑張りすぎることが“老化”を招くのも事実。

これからは、“動かない美”という新たな指針のもとで活動を見直していただきます」


「は?」

頬部グループの**頬村こゆる(ほほむら・こゆる)**が耳を疑った。


「動かないって、何言ってるんスか。笑ったり、泣いたり、怒ったり…顔って感情で動くもんでしょう?」


「その“動き”こそが、シワやたるみの原因です。

不要な活動を抑え、表面をフラットに保つことが、美容における革新なのです」


「……ふざけんな」

咬地が立ち上がった。


「俺たちは、止まるためにここにいるんじゃねぇ! 表情ってのはな、情報以上の“メッセージ”なんだよ。笑うこと、食べること、語りかけること…すべては筋肉が動いてこそ!」


笑子も立ち上がる。


「筋肉は、止めればいいってもんじゃない。あなたたちは、“シワを減らす”かもしれない。でも、“人間らしさ”まで減らしてしまう。

それは…企業としての価値を、自ら壊すことよ」


皺取は一歩も引かない。


「では聞きましょう。“動かない美”が主流になりつつある今、あなた方は時代に逆らうのですか?」


沈黙が支社を包んだ。


が、そのとき。


「逆らうんじゃない。“支える”んだよ」

時岡みねり(側頭筋グループ)が静かに言った。


「時代が変わっても、感情は消えない。笑う人がいれば、私たちは働く。たとえ、それが皺の一つになるとしても、それは“その人が生きた証”だわ」


「……ぐぅ……ッ」

無表情だった皺取の頬が、微かに震えた。


「本社も、世間も、見かけに囚われすぎてるのかもな」

笑子がつぶやいた。


その後、本社は表情筋課の反対意見を受け、ボトックス社の“常駐コンサル計画”を撤回。

外資の風は、一瞬で通り過ぎていった。


だが、笑子は会議室で部下たちに言った。


「動きを止められたって、また動けばいい。

私たちは、“表情”という仕事に誇りを持ってる。

忘れないで――私たち筋肉は、動いてナンボ!」


その日、顔面支社ではふたたび筋肉たちが活気を取り戻していた。


鏡の中で微笑むその顔は、

完璧に“整って”はいないけれど――

どこか、ちゃんと“生きて”いた。

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