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株式会社ヒトボディ第九話【表里課長の休日】〜コメディバーに意外な顔!?~

「は〜、今日はもう笑わせないでほしいわよ……」顔面支社・表情筋課の課長、**表里 笑子(おもてざと・えみこ)**は、久々のオフに心からの溜息をついていた。



休日の彼女は会社とは別人。肩の力を抜き、前髪をふわりと流し、眼鏡は外してラフな装い。

誰にも気づかれず一人でこっそり訪れたのは、都内某所にひっそり佇む


コメディバー「顔芸園」


店内は満席。芸人たちが次々に“顔芸”や“モノマネ”で笑いを誘っている。

彼女は奥のカウンターで、ジンと炭酸をちびちびやりながら、心のシワを伸ばすつもりだった。



――そのとき。ふと隣に座った男に視線を向けた瞬間、彼女の目がカッと見開かれた。

「……あなた、まさか……」


「おや、奇遇ですね。表里課長



隣に座っていたのは、あのボトックス社の冷酷コンサル、皴取顔磨(しわとり・がんま)。


「なんであなたが、ここに……?」


「我々も、たまには現場観察をするんです。笑いとは、最大の敵ですからね」そう言いながら、氷の溶けかけたウィスキーをすすった。


「……監視かしら?」


「いえ、興味ですよ。筋肉の自由運動が、どこまで人に影響を与えるのか。学術的関心です」


その時、舞台上で芸人が全力で“アンパンマンとピカチュウがカラオケで喧嘩する”という謎のネタを披露。観客は爆笑。――表里も、口元がついピクリと緩む。

「……くっ、だめだ……これはずるい……」思わず漏れる笑いに、表里は慌ててグラスを口に当てて隠す。


一方の皴取。目を閉じ、表情ひとつ動かさない。

(さすが……さすが“感情の仮面”……!)


しかし、その時。芸人が観客席を指さし、

「おい兄さん!めっちゃ無表情やん!顔、落としたん!?それ、忘れ物かーい!」と突っ込むと、店内は大爆笑。舞台の照明がまさかの“皴取”を直撃した。


注目を浴びる彼。無表情のまま、一瞬だけ……ほんの一瞬だけ、右の口角が――


「動いた……?」

表里は確かに見た。そのミリ単位の、幻のような微笑。


店を出ると、皴取は何事もなかったかのように言った。

「……誰にも、言わないでください」


「ふふっ。言わない代わりに、次の月報のネタに使うかも」

そう笑った表里の頬には、ほんのり笑いジワが刻まれていた。


――こうして、敵対する筋肉たちは、笑いの夜に束の間の停戦を結んだのだった。



今回のお話はいかがでしたか?


ストーリーから少し脱線し、皴取氏の内面が少しだけ見えた気がしますね(笑)


さて、次回はまた株式会社ヒトボディのあわただしい日常が戻ってきます。

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